特区の呪い

特区はもともと腐敗を助長しやすい。実際に汚職やネポティズムを生むかどうかは別にして、それらを生みやすい制度だ。そこで特区のガバナンス悪化の誘惑を、「特区の呪い」と名付けてみた。

特区はどんな呪いもたらすのか、またそれはなぜなのか?

呪いの第一はネポティズム、つまり中央と地方の政治家が親族やお友達の便宜をはかることだ。政治家への働きかけるコネとカネがあるものが政治を左右するこれは民主主義制度の根本的欠陥の一つだと、政治経済学では指摘されている(加計学園グループの獣医学部設立では、この点が問題とされている)。

第二の呪いは汚職、つまり便宜をはかる見返りに政治家に利益の供与が行われることだ。

第三に民主主義の劣化だ。特区の選定や運営が不透明となり、(前川前事務次官の指摘はこの点に関連している)代議制に基づく民主主義が形骸化する。

第四に、経済を歪めるため経済全体の効率を損なう。このため規制緩和を主張する経済学者には、特区はあまり好まれない(第4点を説明すると長くなるので、以下の説明では触れない)。

もちろん、呪いは常に実現するとは限らない。世界的に見て、よく見られる特区は自由貿易特区や輸出産業特区だが、少なくとも、経済成長に寄与したとされる特区は少なくない(中国の特区がしばしば成功例として挙げられる)。

では呪いの原因はなんだろうか。つまり特区はなぜこうした問題を惹き起こす恐れがあるのか。その理由を考えてみた。

まず、特区は特権を少数の組織に配分する。ある地域、ある産業、場合によっては一企業に例外的な利益を与える。

少し長くなるがその理屈を、説明する。特区は規制緩和の「突破口」となると位置づけられている。

ちなみに、規制緩和が良しとされるのは、競争の導入により規制に守られた一部企業から特権的な利益を奪い、経済の効率を上げ、消費者の利益を増大させることが目的だ。

公的な説明によれば、全国的な規制を緩和するのは難しいので、狭い地域でのみ規制を緩和する特区が構想された。

結果的に、全国的規制は維持されるので、特区指定地域は特別の扱いを受けることになる。つまり地方自治体ないしは地方の企業グループは特別の利益を受けることになる。

今、企業グループ(複数の企業)と述べたが、地域が狭いため、特区は地域内の競争を促すよりも、少数の企業に独占ないしは寡占的的に特権を与えることになる傾向がある。

今治の獣医学部設立認可は、全国的にみて獣医学部の新規参入を一つ認めた点で、競争を促進するといえる。しかし同時にもう一校の参入を不可能としたのは、一段の競争促進をわざわざ抑制したことになる。

また加計学園グループの獣医学部は、四国では独占的な立場となる。ちなみに他にも一定地域で独占状態の獣医学部は多い。

次に、特区を選定するのは少数の中央政治家だ。通常の官僚的手続きは行われず、国民の広い合意も得る必要がない。特区を申請できるのは地方自治体なので、地方政治家の役割も大きい。

民衆の目につかないところで、政治家や官僚が自分の裁量で決められる分野があると、企業は自分の利益となる政策をとらせようと活発に働きかける。これはロビーイングと呼ばれる活動だが、法に反して利益を提供すると汚職と呼ばれる(なぜか献金は違法ではない)。

特区は、常にネポティズムや汚職を生むわけではないが、それらへと政治家や企業を誘惑する制度であるといえる。経済学および政治経済学的に言えば全国的な規制緩和を目指すべきであり、「そのための手段だ」という名目で特区を乱造するのは、望ましくない。

今治の獣医学部問題を、政治家のモラル問題と見るのは正しい。しかしやや遠景から見ると、特区制度を認めた段階で、この問題は予見された問題であり、また特区制度を廃止しなければ、同様の問題は常に(露見するかどうかは別にして)起こりうる。リスクを孕んだ制度であり、政治を堕落させるおそれがある仕組みは廃止したほうが良い。

なお、これを書くにあたっては、首相府のHPで国家戦略特区関連の資料を読み、世界的な特区の研究をgoogle scholarであたっただけ、本格的な研究に基づいたものではありません。いわば時事的な論評です。

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